人の名前が思い出せない。あんなに仲良くしてたのに。
あの人の名前なんだっけ。
あだ名と下の名前は思い出せるのに、苗字が思い出せない。
彼のあだ名は『まるまる』といいました。
苗字に『丸』がつきます。下の名前もS君といいます。
覚えています。ちゃんとじゃないけど、覚えています。
なんだっけなぁ。
LINEの名前も『まるまる』になってるし、いっそLINEで聞いてみようかな。
「久しぶり。ところで名前なんだっけ?」
ってね。
学生の頃、バイト先での経験です。
本社からそこそこ偉い人が現場見学にきました。年齢は40手前くらいだったと思います。
この人は2週間ほど、私たちバイトと同じようにフロアに出て接客し、オープン作業、閉店作業などをこなしました。
教えるのはバイトたちです。私は当時19歳。若い。若い人が40手前のおじさんに仕事を教える。
シュールな光景です。
このおじさん、若い小娘に仕事教わるとか、どういう心境?
2週間経ってなんだかんだで仲良くなった人、ただただ使えないとうっとうしく思っている人、色々いました。
今日でこの人ともさよならです。
「みいこさん、色々丁寧に教えていただきありがとうございました」
あら。この人私の名前覚えてる。
お世話になったといえど、たった2週間。しかも歳がだいぶ離れたこんな小娘の名前を覚えているなんて。
驚きました。普通のことなのに。
仕事は人の名前を覚えることから始まるんだと、教わりました。
とても大事なことを、2週間一緒に仕事しただけの人に。
名前を覚えるようになりました。意識して覚えました。
☆☆さん、とちゃんと呼びかけられるように。
なのに『まるまる』のことを忘れるなんて。
『まるまる』。二人でよく仕事帰りに飲みにいったよね。
終電まで飲んだりしたね。『まるまる』だけ帰れなくなったこともあったよね。
私は帰ったけど。
あ~『まるまる』。本当になんだっけ?
『まるまる』の苗字を思い出せないまま、『まるまる』を知っている人と飲みに行きました。
女同士でさし飲みです。こじゃれた物を頼みます。
彼女に聞いてみました。
私 「あのさ、本当に恥ずかしい話なんだけど、『まるまる』って苗字なんだっけ?」
あははと笑って見せました。冗談ぽく言ってみました。
でも彼女の時が一瞬止まったのがわかりました。
彼女 「え、、、本気で言ってます?大丈夫ですか?(頭)」
私 「大丈夫じゃないから聞いてるんだよ」
彼女 「私の名前覚えてますよね?」
私 「覚えてるよ!カルテットのドラマに出てきた、巻真紀(まきまき) みたいな名前だから覚えてる」
彼女 「そんなんだから人の名前忘れるんですよ」
彼女に言わせると、覚え方が雑なんだそうで。
確かにそうかもしれない。
『まるまる』のことも、『丸』がつくから漁船みたいな名前の人、くらいにしか思っていなかったのかも。
19の頃、ちゃんと覚えようと思っていた人の名前。
覚え方がいけなかったなんて、思いもしませんでした。
30を過ぎ、私は今でも日々勉強中です。
こういった勉強が終わる日が、いつか来るのでしょうか。
くるといいな。
おしまい
『まるまる』は『石丸』くんでした。ごめんね。